公共図書館における情報サービスの課題と問題点
東京大学 根本 彰
1 3つの情報サービス論
まず、「情報サービス」という言葉から検討しておこう。現在、公共図書館においてこの情報サービスという場合に、対立する概念として「資料提供サービス」、「レファレンスサービス」「図書館機械化」の3つがあって、コンテクストに応じてこうした対立概念を意識して使用しているということができる。しかしながら、今後、これらの3つの用法は統合される方向にある。
(1)
資料提供 vs 情報提供周知のように、1963年に日本図書館協会は『中小都市における公共図書館の運営』(略称中小レポート)という題名の報告書を刊行した。このなかで表明された「資料提供」という概念は、その後の公共図書館サービスのパラダイムを構成したということができる。資料提供はそれ以前の「資料保管」あるいは「資料管理」と対立する概念であった。
資料提供は、資料の利用に対する住民ニーズに積極的にこたえることを重視する考え方であった。その特徴として、第一に、要求を所与のものととらえ、図書館員が要求を評価したり、要求に介入したりしない、第二に、提供するのはあくまでも資料であって、そこから利用者がどのような情報を引き出すか、どのような使い方をするのかに図書館員は関知しない、ということがあった。「中小レポート」には「相談」という概念で、レファレンスサービスについて触れられており、資料利用について図書館員が相談にのる業務も挙げられていた。また、中小レポートの資料提供概念の目標をより戦略的に明確にした『市民の図書館』
(1970)では「読書案内」というかたちで、貸出サービスを行う際にニーズと資料を結びつけるための図書館員の人的サービスが必要なことを明示した。しかし、これらは従来それほど重視されてきたとはいえない。これに対して、資料提供と対になる情報(提供)サービスとは、利用者のニーズに介入し、それを分析しながら、利用者が求めている情報を最終的に提供することである。その際に、資料を提供することになるのか、資料の一部を提供するのか、データベースなどから検索するのか、情報をもつ機関や人物を紹介するのかなどの手段は問わないことになる。すなわち、ここでは従来のパラダイムに対して、資料から情報一般へ、利用者不介入から介入へという二つの大きな変化が見られる。
(2)
レファレンスサービス vs. 情報サービスレファレンスサービスはアメリカからの輸入概念である。アメリカでは、19世紀末から単なる資料提供の体制(施設、蔵書、資料整理など)をつくるだけではなく、そこに人的援助を中心とするレファレンスサービスの組織をつくっていった。図書館専門職の根拠は、他のパブリックサービス(子どもへの読み聞かせや各種の集会行事サービスなど)とともに専門的知識がなければできないサービスを提供することにあり、レファレンスサービスは専門的なサービスの典型とされている。
この考え方は戦前から一部導入されていたが、戦後占領期に慶應大学に日本図書館学校が開設され、アメリカからレファレンスサービスの専門家であるチェニー
(Francis Cheney)がきて、図書館指導者養成講習等の機会にレファレンスサービスの重要性を説いたことからわが国でもひろまった。とくに神戸市立図書館長志智嘉九郎はそれを受け継ぎ、1950年代に同図書館で電話を使用したレファレンスサービスを広く実践したことはよく知られている。また、彼は『レファレンス』(1954)、『レファレンス・ワーク』(1962)を書いて、その重要性を図書館界に広く説いたことでも忘れられない業績を残した。だが、わが国では
1960年代までは基本的なサービス体制ができていなかったことがあって、レファレンスサービスだけを突出させたサービスは一般に普及しなかった。また、60年代以降先に述べた資料提供の考え方が広まるなかで、レファレンスサービスの位置づけは次第に曖昧になっていったいえる。レファレンスサービスは、資料とくに二次資料の質・量、そして担当する職員組織およびその個々の担当者の専門性に依存するので、その体制をなんとかつくりあげることのできる都道府県立図書館や政令指定都市立図書館以外の図書館では、片手間にしかできていない状況であったということができる。さて、
1996年に改定された図書館法施行規則で示された司書講習のカリキュラムにおいては従来の参考調査法およびその演習に代わって、情報サービス概説およびそのレファレンスサービス演習という科目が新設された。また、情報検索演習が加わっている。現在、情報サービスという言葉はこの科目名に由来した使い方がなされることも多いのでその点について述べておく。アメリカでは従来レファレンスサービス(reference service)と呼ばれていたものは、1970年代からコンピュータを用いたデータベース検索が取り入れられるにつれて、レファレンス情報サービス(reference & information service)、情報サービス(information service)と名称を変えていった。そもそもアメリカの場合、資料以外の情報を広く探索して提供することが一般的に行われていたから、サービス内容が各種の情報機器を使用したものに変化していくことには抵抗がなかったといえるだろう。ともかくアメリカにおけるレファレンスサービスから情報サービスへの変化が、司書講習カリキュラムの変化に反映されていることは間違いない。名称がこのように変わっていったことについて、わが国において概念を曖昧にしたといえなくもない。というのは、レファレンスサービスは図書館独特の概念であることは明らかであるが、情報サービスとなるとあらゆる領域で用いられる言葉であり、途中にアメリカで見られたような漸進的な名称の変化がなかったからである。
(3)
図書館サービス vs 情報サービス近年インターネットや
CD-ROM等の情報通信機器を用いて図書館の機械化のグレードを上げようとする考え方が現れている。たとえば、文部省生涯学習審議会図書館専門委員会の報告書「図書館の情報化の必要性とその推進方策について?地域の情報化推進拠点として」(1998年10月)では、社会が要請する高度情報化の動きのなかで図書館もまた対応していくべきことが主張されているが、そこでは「新しい情報サービス」について種々述べられている。その前提として、従来の冊子体資料が徐々に電子化される傾向にあるので図書館としては当然に対応すべきこと、また、もともと地域への資料提供サービスを行っていたのだから地域情報提供施設として機能することができることが挙げられている。しかしながら、前者の点はともかく後者については問題が多い。現在、公共、民間を問わずあらゆる機関は情報化の波をかぶっており、情報通信網への対応を迫られている。そのなかで公共図書館の場合、これまでは図書館パッケージの導入という形で機械化を進めていたにすぎない。分類、目録、件名作業などの整理業務は本来重要な情報サービスなのだが、外部で開発されたパッケージを導入し、商業的なMARCをコピーする形で業務が進められるようになって、自らの整理業務の基盤を他に転嫁し、情報サービスの基盤を弱体化していることは否めない事実である。
これまで政策的に図書館を地域情報化の拠点たろうと位置づけた例は稀である。たとえば文部省でも生涯学習情報ネットワーク政策があり、これは公共図書館行政と同じ学習情報課の守備範囲であるが、別のものとして実施されている。この政策に基づいて各都道府県で生涯学習情報データベースがつくられているが、そうしたデータベースづくりはまさに図書館情報学の課題であり、米国ならば公共図書館の業務として取り組まれているものである。つまりここにおいては、本来「地域情報化の拠点」であったはずの図書館をバイパスしたところで情報政策が実施されているという矛盾がある。
(4)
情報サービスの課題アメリカでは
1990年代初頭、情報スーパーハイウェイ構想が現れたときに図書館界は積極的にそうした連邦政府の関係当局に働きかけを行い、医療機関、教育機関とともに図書館は政策として優先的に整備されるべき公共機関としての位置づけを獲得した。政策そのものは州によって異なるが、通信回線の割引や機器の整備、担当者の研修などが政策的に行われている。連邦レベルでこのような位置づけを獲得したのは図書館界とくにALAが強力にロビー活動を行ったからだと言われている。しかしながら、インターネットが実用化したからといっていきなり公共図書館が電子化サービスを実施できるわけではない。そうなるためには、近代的な公共図書館サービスが始まった19世紀後半からすでに情報サービスがレファレンスサービスという形で組織的に開始されていたことを指摘しておかなければならない。公共図書館における専門職的なサービスとしてレファレンスはすでに100年の歴史をもっているのである。そのなかで、利用者の情報行動を予測しながら情報源を整備し、利用者へのレファレンス質問に回答し、データベースを作成しというようなかなり専門的な業務を通常の中小規模の図書館でも実施している。
インターネットという新しい情報基盤においても図書館が変わらずに情報サービスを実施可能であることを主張できる根拠として、アメリカの公共図書館はそれだけの実践の蓄積をもっているのである。
アメリカと比べて、わが国において図書館における「情報サービス」は、図書館界における自主的な振興施策としても、国や自治体の政策としても明確に位置づけられてこなかったといわざるをえない。日本の公共図書館、とくに市町村立の図書館の場合、これまでレファレンスサービスといっても収集した参考図書をもとにカウンターやフロアで兼務として質問に答えるという実践しか行っていない図書館が多かったため、情報サービスについてはこれから始まるといってよいだろう。つまりレファレンスサービスの延長としての情報サービスを行うためには、
の4つの課題を同時に解決していくことが必要になるのである。
筆者の基本的な立場は、図書館で行っているサービス体制をこのような視点から再度見直す必要があるということである。ここでいうサービス体制は、図書館で行っている職員組織やサービスの内容ばかりでなく、文部省や都道府県、市町村の図書館政策も含むことはいうまでもないが、さらに、図書館職員の養成の方法や国や自治体の情報政策や生涯学習政策のなかで図書館をどのように位置づけるかといったことにまで及ぶものである。
このような検討を今後行っていく予定であるが、この発表では、そのような前提的な課題の解決が必要なことを強調した上で、今後の情報サービスの内容について検討を加えていく。
2 インターネットを利用する図書館サービスの可能性
公共図書館がインターネットを導入したサービスを行うとすれば次のような可能性がある。
(1)
インターネットアクセスポイントとしての公共図書館これは公開端末を図書館に設置して利用者に利用してもらうというサービスである。インターネットを(公衆電話のような)通信機器と位置づけ、利用者に自由に使ってもらうというサービスである。この立場からすると、これは図書館本来のサービスではないので、通信接続料を利用者に負担しれもらってもかまわないという判断もでてくる。
他方、従来からのコミュニティにおいて知識情報を提供する情報提供センター機能の延長にあるととらえられる立場もありうる。ネットワーク情報源を図書館資料と同様の位置づけをするという考え方である。この立場からすると、有料化は図書館法17条に反するととらえられる。
しかしながら、このようなサービスは一方で、民間においてインターネットカフェなどの営利事業として行われ、他方、自治体においても役所、出張所、公民館、生涯学習センター等の公共施設のサービスとして実施される可能性がある。とくに後者と図書館の行うサービスとの相違がどこにあるのかという点は留意しておく必要がある。情報弱者への社会福祉的なサービスとして位置づけるとすれば、それは公共施設のどこにおこうと同じであり、図書館独自の意味づけがどの程度できるのかが問題となるだろう。
(2)
図書館業務への通信機能の導入インターネットは電子メールから始まった。電子メールは図書館どうしの業務連絡、利用者からのリクエストやレファレンス質問の受付、広報手段、図書館員どうしの情報交換など多様な場面で強力な道具となる。
電子メールのメリットを整理しておこう。
このように電子メールは電話、郵便、ファクシミリのような従来の通信機能の一部を取り込みながら、コンピュータによるトータルな通信環境を作り上げることができる。
この電子メールは1対1の通信を前提にしたものであるが、あるホストから同時に多数のホストにメールを送ることも容易である。そしてこの機能を利用して、メーリングリストサーバーを設定することで、1対多の通信を連続的に行い、多数のホストが同じメッセージを共有することができる。
こうした一定のグループでの同報通信手段によって、一定のテーマで議論したりといったことが可能になる。
(3)
レファレンス情報サービスとしてのネットワーク情報資源の導入インターネット情報資源が新しい公共的な情報としてアクセス可能になっている理由としては、インターネットが以下のような互恵的な文化的環境でつくられてきたことを知っておく必要がある。いわばgive and takeを原則とするものであり、これは金銭を媒介とする市場的あるいは商業的な文化と対立的である。
インターネットは学術情報を共有する手段として出発した。アカデミズムはボランタリズムと互恵制を基調にしている。研究成果を学術コミュニティの構成員がだれでもがアクセス可能な場に置くというのが原則である。そのため、商業的な利用が始まってもインターネットでは大学、研究所、官庁、企業などに属する研究者による研究成果であるデータや論文等が利用できる場としての役割が大きい。すなわち研究者が相互にそうした情報を利用し合う場としてのインターネットである。現在、最先端の研究情報の第一報は印刷媒体や学会講演のような旧来のコミュニケーションの場で公表される以前に電子メールで研究者相互に伝えられるといわれる。そうした情報は関連研究者のメーリングリストやニュースグループで公知される。
これと関連して、インターネットがUnix文化と密接に関わって醸成されてきたことが重要である。この文化においては、コンピュータのアプリケーションソフトやツール、ユーティリティソフトをユーザーが開発しこれをフリーソフトとして公開するという慣習がつくられている。最近Linuxが注目されているが、これは基本ソフト(OS)までフリーソフトとして開発されることを示している。
インターネットが一般化するにつれて、この文化はさらに広がりを示した。最先端の研究成果や研究のデータは一般向けに加工され利用できるようになった。企業や官庁は自らの積極的な情報公開手段としてWorld Wide Webを利用するようになった。
以上はどちらかというとアメリカの状況であり、このような文化はわが国では十分に育っていなかった。インターネットはどちらかといえば個人が発信する種々雑多な情報と企業の宣伝情報のいずれかというような状況が強かった。だが近年、官庁や企業の社会的責任を問う声のなかで、政府の審議会情報や統計情報の開示、企業の経営情報の開示などが行われている。また、NPOや公益団体のなかには積極的にインターネット上への情報の提供を行っているところも増えている。図書館もまた積極的にインターネット上に資料の所蔵情報を発信し始めている。ネットワーク上の決済方法が未確立であることもあり本格的な商業的利用はまだ始まっていないので、たとえば新聞社やテレビ局の報道情報や企業が提供する情報の多くも無料である。
これらはレファレンスサービスの重要な情報源となるものである。それに加えて、次のような例が増えていてレファレンスにおけるインターネットの重要性を示すものとなっている。
インターネットでは商業的な外部情報源と図書館が契約することで、館内のLAN環境のなかで利用者や図書館員が複数のホストからこれを使用したり、場合によっては住民にIDとパスワードを配ることで自宅でインターネットを通じてこれを利用するといったサービスも可能である。これはいうならば図書館が団体契約を結ぶという方法である。
(4)
インターネットへの情報発信上で述べたように、情報発信ツールとしてのWWWはすでに定着した感がある。一定の社会的責任をもった組織であるなら、ホームページをもってそこで一定のPR、経営情報を開示することは当然のこととなっている。ホームページを作成して情報発信するだけなら、あまり複雑なことをやらない限りプロバイダーが提供しているサーバーを借りることで実施することができる。
図書館も同じように情報発信ができる。
基本的な情報を出発点に、さまざまなサービスを組み合わせることができるだろう。このなかでは、技術的には
OPACやデータベースの組み込み、電子図書館的なサービスが高度なものといえる。また、運営面に積極的に用いるとすれば、さまざまな内部情報を公開することができる。また、検索システムや電子図書館的なサービスを提供することで、図書館は他でやっているようなPR手段や経営内容の開示にとどまらない、独自の情報サービス機関であることの自己主張が可能になる。
3 検討すべき問題点
公共図書館において、インターネットを導入して情報サービスを提供する際の検討すべき問題点を検討しておこう。
(1)
回線インターネットを導入する上で最大の問題はいうまでもなく経費負担の問題である。そのなかでも、通常的な経費としては通信回線費の負担がもっとも大きいと言える。サーバーを設置する際に公衆回線へのダイアルアップ接続ではなく、専用回線で常時接続する必要がある。また、クライアントとして使用する場合にも通信料、接続の手間などから常時接続の方が有利である。
図書館が常時接続の環境を得るには、
b.現在文部省と郵政省で予定している学校へのインターネット接続計画に図書館も加わる
c.独自に専用線を引く
などが考えられる。
a., b.とも十分可能性のあるプランであろう。インターネットは個別に入るよりも自治体全体としてあるいは教育施設全体として加入した方が費用対効果は高い。しかしながらアメリカと違って公共図書館が接続する回線料の割り引きやそれに対する補助金の支出は行われていない。文部当局には学校インターネット導入計画との連動を期待したい。また、都道府県教育委員会も図書館にこうした通信環境をつくることの重要性を検討し、市町村への補助金を検討すべきである。
c.しか考えられない場合はどうであろうか。電話会社が常時接続の通信回線料とインターネット接続料を合わせて提供しているプランでもっとも安価なもので年間40万〜50万円前後である。地域によっては、ケーブルテレビがインターネットサービスを提供する場合がありその半額程度で常時接続が可能である。こうした金額は得られるサービスのメリットに比べれば決して高いとはいえない金額である。だが、これは都市部で得られる接続環境であって、全国的に可能にするためにはそれなりの政策が必要になるだろう。
(2)
費用負担これまで、インターネットの利用者開放を実施している図書館の考え方をみると大きく2つに分かれる。それは、インターネットのサービスを「図書館サービス」と見る考え方と「通信設備」と見る捉え方である。「図書館サービス」とみる考え方は、インターネットクライアントで受信したメッセージは従来の図書館資料とみなす考え方で、図書館法17条の規定からいって無料提供を原則とする。
これに対し、「通信設備」と見る捉え方は、図書館に置かれた公衆電話と同じように利用者にとって便利な機器を設置していると考え、利用者は自分で自由に利用するが図書館のサービスとは別物とみるのである。公衆電話が有料で提供されるように、「通信設備」であるインターネットサービスは時間を単位とした課金をすることができると考えられうる。
ただし、これは接続方法にもよるものといえる。つまり、アナログ公衆回線にせよISDNにせよ従量制の料金体系で接続する場合には課金されやすく、通信料金が他で負担されていたり、専用線で定額料金を支払う場合には無料提供にしやすい。
上で述べたように、これから専用線接続が主流になっていくとすれば多くの場合、定額負担が可能になり、通信回線料を課金する根拠はだんだん小さくなっていくことが予想される。
(3)
プライバシー保護条例と情報サービス自治体のプライバシー保護条例において、個人情報を扱うシステムを外部の回線に接続してはならないと規定している場合があり、このため、貸出や予約などの個人情報をもった図書館の電算処理システムにインターネットサーバーを設置することができないことがインターネットを導入する際の障害になっている場合ある。そうした条例は、セキュリティシステムが十分に発達していなかった時代につくられたものである。現在、ファイアーウォールのように、個人情報を含んだシステムと外部にデータを見せるシステムとを分離する技術も存在しているので技術的には解決可能な問題と考えられる。ただ、発達の方向としては、利用者がOPACを見て予約をかけるとか、自分の貸出記録を見ることができるようにするといった個人情報とWebとを組み合わせることが求められているので、個人情報保護には細心の注意を払う必要があることはいうまでもない。
(4)
システム開発の体制従来の図書館業務システムや情報検索システムは、オフコンと呼ばれる汎用機に個々のパッケージシステムをカスタマイズすることで提供されることがほとんどであった。それは基本的にブラックボックスであり、図書館員が直接開発したり、システムを改良したりすることは困難だった。
それに対して、インターネットで利用するハードはUnixワークステーションやパーソナルコンピュータであり、通信プロトコルは公開された技術の組み合わせによって提供されている。業務システムはともかく、インターネットのサーバーを立ち上げたり、データベースを製作したりするのは、技術的知識を系統的に学習した人なら図書館員でも十分に可能である。ホームページのもとデータはHTMLと呼ばれる簡易言語で書くが、これなどはわずかな学習で可能である。(今はワープロソフトや専用ソフトでこれを容易に作成することができる。)手作りの技術で可能であるということはきわめて重要なポイントである。
現在のところ、公共図書館の場でこれを学ぶための体系的な教育研修の機会はほとんど用意されていない。先進的にサービスを実施しているところでは、たまたま技術に秀でた職員がいたか、図書館員が自分で学んだかということである。上述のように手作りの技術であるということは関心をもつ人が自主的に学ぶことができることを意味する。しかしながら、今後こうしたサービスをしっかりと行うためには、図書館員養成教育に位置づけること(現在は選択科目である「情報機器論」くらいしかない)が必要であるし、かなりの時間をかけて現職者の技術的研修を行うことが必要となる。
(5)
著作権とその制限領域インターネット上の情報資源は著作権法上の著作物に該当するものであり、著作権法が適用される。その際、著作権法が基本的に著作権者の権利を保護するための法律であり、図書館での利用などは著作権を制限するものとして位置づけられることに留意しなければならない。
1996年の著作権法改正により「公衆送信権」という概念が明確にされた。不特定の人がアクセス可能なところに著作物をおくことはこの公衆送信にあたり、インターネットのWWWやFTP、NetNews、メーリングリストサービスなどがこの範疇に入れられる。インターネットで情報発信を行うには、送る著作物の著作権者の許諾が必要であることが明示されたわけである。
だが、許諾を得てインターネット上に置かれた著作物をどのように利用することができるのかについては不明な点が多い。著作権法30条の私的利用は認められるのであろうが、31条の図書館における複製はどうであろうか。
図書館で公開インターネット端末をおいて利用してもらうときに、画面をみるだけなら問題ないだろうか。この場合でも磁気メモリ(RAM)やハードディスク(キャッシュメモリ)に一時的にせよ複製しながら使用しているはずである。さらに、利用者が印刷したいとか、フロッピーディスクに複製したいという場合には31条で判断するのだろうか。
まず、公衆送信権を認めたということは不特定の人のアクセスを認めたということだが、コンピュータでアクセスする際には不可避的にコピーすることになるので、一時的なコピーは許されていると考えられるだろう。だが、印刷やダウンロードは性格が異なる。また、もし印刷やダウンロードに31条の第1号の規定が適用できるとすると、とくに問題になるのは「著作物の一部」しか複製が許されていないことである。「一部」について考えるには著作物の単位を考えなければならないが、これはかなり困難な問題であろう。ホームページの単位はサイト全体か、まとまったページか。画像の単位は1点だとすると部分の複製は困難だろう。このように、31条を適用して複製物を提供するには難しい問題がつきまとう。
もう一つの考え方は商業的なサイトと非商業的(公共的)なサイトを分けて、前者の場合は許諾が必要だが、後者の場合は必要ないとする考え方である。非商業的なサイトは一般的にフリーソフトウエアと同様に、著作権は主張するがコピーや再配布は自由という立場で運営していることが多いので、この考え方は実効性が高い。しかし、それはあくまでも実際にそうである可能性が高いということであって、そうでない可能性が残っている間は法解釈として危険である。最初に述べたように、著作権法はあくまでも著作権者の権利を守る法律だからである。
現在、インターネットを公開している図書館でプリントアウトを提供している図書館は結構あるが、その多くは先ほどの「通信設備」説に基づいて実施していると考えられる。これは、図書館サービスとして行っているのではなく、図書館に置かれた設備にすぎないので、利用者は「私的利用」しているのだと考えるのである。これは一つの立場であろう。それに対して、「図書館サービス」説に基づいて実施している図書館は、コピーやダウンロードのサービスを提供するためには、著作権者の許諾を得ることを余儀なくされると考えられる。それが面倒な場合は、そうしたサービスは提供できないということになる。このため図書館界としては、官庁ホームページのように情報価値が高くコピーの要求も相当あるものについては、(著作権法施行令第1条で指定された資料の複製を認められた)図書館ではコピー可能の表示をホームページでするよう要求していってはどうだろうか。
(6)
アクセス規制と管理責任著作権の問題と似た問題として、情報資源の内容の問題がある。公序良俗の基準に照らして不適切なものを図書館の公開クライアントで一般の市民に見せてもよいのかという問題である。これにも同様に提供する2つの立場で異なった見解になるだろう。
「通信設備」説に基づく場合は、大人が個人の責任で見るわけであるから何を見ようが図書館は関知しないということになる。実際には他人の目があるところで見ることになるのでそれが抑止効果となってあまり問題は生じないということが前提になっていることが多い。だが、図書館が教育施設とされる以上、子どもの利用については図書館の設置責任があることは免れないであろう。
他方、「図書館サービス」説にたつと、さらに内容評価の問題が鋭く問われることになる。但し同様に、他人の目が光るところでは問題は生じにくいだろう。猥褻な図画を遮断する目的で開発されたフィルタリングソフトが存在しているようだが、現時点では完全に遮断できるわけではないようだ。また、こういうものを使うべきではないという意見もある。
アメリカでは、ALAが一貫して知的自由を守る立場から図書館はインターネット上の制限をすべきでないと主張している。1996年に成立した通信品位法(Communication Decency Act)がネットワーク上の「猥褻」情報の発信者を罰することができるとしたが、成立直後にALAも原告となったいくつかの訴訟が提起され、97年に違憲であるとの連邦最高裁判決があった。これにより法律は失効した。権力機関が情報発信を元から絶つような法律が言論出版の自由を定めた憲法修正1条に反するというわけである。現在、この問題については発信者の自主的な発信制限が望ましいという論調となっている。図書館の場合も、コミュニティによっては図書館の側でフィルタリングソフトなどで制限すべきことが主張されたが、同じく連邦最高裁の判決で成人に対するそうした一律の規制が言論の自由の侵害であるという判決があり、より柔軟な方法が提案されている。
成人の利用者には利用規則等で「公序良俗に反するコンテンツへのアクセスを禁ずる」旨のことを謳うことで、モラルに訴えるしかないと考えられている。公序良俗の定義も、猥褻物だけでなく、犯罪に関わる情報、薬物や毒物の情報など多岐にわたるので、一律に規制することはできないだろう。
なお、図書館利用者のプライバシー保護の観点からすると、人目に付くところにそうした公開端末を置くべきではないという考え方もありうる。個人ブースなどで外から遮断した環境でインターネットを利用することにすると、再度、内容規制の問題が出てくる可能性もあるが、筆者が今まで見学した日米の図書館において、そうした環境下でインターネットを提供している図書館はなかった。図書や雑誌等の文字資料とビデオやインターネットなどの映像資料で、プライバシー保護について異なった捉え方をすることが必要なのかどうかを、検討する必要がある。
4 おわりに
筆者が前稿(
根本彰「インターネット時代の公共図書館サービス--米国の状況を中心に」日本図書館学会研究委員会編『ネットワーク情報資源の可能性』(論集・図書館情報学研究の歩み 15集)日外アソシエーツ刊 1996年)で主張したように、公共図書館における情報サービスはきわめて大きな可能性をもつが、そのためにはいくつかの前提条件を満たしている必要がある。冒頭で検討したように、情報サービスは、レファレンスサービスと図書館業務システム構築がどのようなレベルで実施されているかに依存するものである。これらが、図書館員の手で創造的に進められているかどうかが問題なのである。レファレンスサービスにおいて、インターネットの情報資源を積極的に質問回答のようなサービスに生かすことができる。今やそうした情報源を使用せずにレファレンスはできないだろう。
だがレファレンスサービスは単に、外部にある情報源を使うことを意味するだけではない。参考図書を購入するように、CD-ROMを購入して利用者が使用できるようにすることや、そうしたCD-ROMをネットワーク契約で導入して館内の複数のパソコンからアクセスできるようにすること、さらに、すでに触れたがインターネット上におかれた商用データベースに図書館として契約して館内の端末から利用したり、場合によっては利用者が自宅のパソコンからアクセスできるようにすること。つまり、当該コミュニティの成員のために情報利用の環境を醸成することに関わっている。
そのような外部情報源の導入だけではない。先にも述べたように、より簡易化された情報処理技術であるインターネットは、従来自館作成ツールと呼ばれるものを図書館員自らがデータベース化し、これを外部に発信することも可能にする。
このようなレファレンスサービスは図書館業務システムと融合していくであろう。従来の業務システムは、「図書」のみを管理単位としていた。業務システムには目録システムが連動しているから、図書レベルの検索システムが可能になっているが、それ以上の情報サービスは提供されない。
図書館の本質に戻って、次の表のような情報システムをつくることがインターネットを前提とした図書館情報サービスにとってまず最初に必要であると考えてみたい。なぜなら、図書館は図書をはじめとした資料のコレクションであり、資料からいかにして情報を引き出すかがポイントだったからである。そのための検索ツールとして図書なら目録があったわけだが、それ以外のコレクションについてはツールが十分に導入されず、利用者はツールなしに使用することを余儀なくされていたといえる。したがって、新聞や雑誌のような活字資料の検索ツールを整備することは必須のことである。それ以外のネットワーク情報資源の導入はこうした基本的な情報サービス提供体制が整ってからの段階のものと考えるべきであろう。
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もちろん、「通信設備」として導入するという方法もあったわけだが、これは図書館サービスとの関係を考慮しない過渡的な段階であると考えられる。方向付けとしては「図書館サービス」として導入すべきであり、そのためには著作権との関係、利用方法を含めた管理体制のような問題について厳密に検討する必要があると考える。