以下の論文は、『現代の図書館』(日本図書館協会)の32巻4号(1994年)に掲載
された同名の論文のもとになったものである。
この論文は投稿したときは、当初400字で50枚ほどのものであったが、編集委員会の
査読において、2つの注文を受けた。ひとつは、長いので35枚に短縮すること、もう一
つは有料性の問題などセンシティブな問題が事実と著者の意見とが渾然一体として記述さ
れていて読者に誤解を与えかねないので、事実のみを書いてほしい、というものであった。
私は、前者については条件を飲むが、後者についてはできるだけわかりやすい表現に書き
直すけれども意見を差し挟むことについてはゆずれないとした上で、短縮版を投稿し、そ
れは採択された。
ここに示すものは、元になった原稿のほうである。
なお、BCPLのホームページは、こちらです。
ボルチモアカウンティ公共図書館のサービス戦略
根本 彰
はじめに
5年前にアメリカのミシンガン州アナーバー公共図書館のサービス実態についての詳細
な報告を行った。(1)わが国ではあまり知られていない部分に光をあてることを目的とし
ており、この図書館の次のような点を明らかにすることができたと思う。
(1)図書館サービスが流通している資料の貸出に特化せず、幅広い人的サービスを提供し
ていること。
(2)特に、レファレンスサービスの実態が単に参考図書によって質問に回答することでな
く、図書館が独自のコレクションをつくることも含めコレクション全体を情報資源とみな
して多様な方法で情報ニーズに対応できる方法をもっていること。
(3)これらのサービスを通じて、市民から広義の教育的文化的環境醸成の役割を果たす機
関として認知されていること。
今回3月から4月にかけて5年ぶりにアメリカの公共図書館を見る機会があった。アト
ランタで開かれた公共図書館協会(PLA:アメリカ図書館協会の公共図書館部会に相当
する)の大会に出席した後、アトランタ市立中央図書館、ボルチモアカウンティ公共図書
館、ミシガン州のアナーバー図書館、ミシガン州立図書館、シカゴの新中央図書館などを
みてきた。
大会やこれらの図書館を見てきたあとの率直な感想は、いろいろな財政的制度的諸問題
をかかえながらも、アメリカの公共図書館は全体として発展・制度化の時期を終え、成熟
の期を迎えているということである。
話題の中心のひとつは相も変わらず情報技術をどのように図書館で生かすかということ
であった。しかしながら、すでに館内業務の機械化やOPAC、CD−ROM機器の設置
は当然のものとなっており、もっかはやっているのは、LANによって結ばれたCD−R
OMを館内のあちこちに設置された複数の端末から検索できるようにしたり、OPACに
ライセンス契約による雑誌記事の索引や百科事典などのデータベースを組み込み、利用者
が自由に利用できるようにすることである。図書館によっては、外部の電話回線から住民
がこれらのデータベースにアクセスできるようにしている。さらに進んだ図書館は、イン
ターネット上にデータベースを公開することにより、外部の機関や利用者にそれらを開放
したりしている。図書館が自ら作成した地域情報のデータベースをこのようにして住民に
提供している例も少なくない。
成熟というのは、これらの情報技術がこれまで蓄積してきた図書館サービスの自然な延
長上にあることをさしている。CD−ROMや地域情報データベースといっても、従来か
ら冊子体の記事索引は重要な位置づけにあったし、地域情報を集めファイル化するサービ
スも多くの図書館で一般的に行ってきたものである。新しいコンピュータ技術やネットワ
ーク技術はそれらをより効率的に提供するために用いられているものであり、なんら無理
なくこれらが導入されているように見えた。
ここでは、特に、ラジカルな図書館サービスで全米でも有名なボルチモアカウンティ公
共図書館のサービスと経営方針について書いてみたい。
ボルチモアカウンティ公共図書館
この図書館(以下BCPLと表記する)については、かなりの数の日本人が訪れてその
報告記を書いている。(2)なぜここが好んで見学対象になるのか、これまでの訪問記では
そのあたりのことがきちんと書かれていないのでよくわからない。(もっと言えば、これ
までの報告記の多くはこの図書館のラジカルな性格をよく理解しないままに書かれている
のではないだろうか)それはともかく、ここがすでに20年以上も館長を務めているチャ
ールズ・ロビンソン氏の強力なリーダーシップのもとに、きわめて個性的なサービスを実
践しており、それが様々な意味で多くの人の関心を引いていることは確かである。
もっとも新しい報告記録は、神戸市立図書館の山本昭和氏によって書かれている。(3)
この報告は、この図書館が実践している「求める人に求めるものを」(Give 'em what th
ey want!)というきわめて利用者指向のコレクションづくりの方法を紹介したものである
。確かに、この図書館はアメリカでも日本でも、コレクションづくりが現在のコミュニテ
ィにおけるマジョリティの利用者の読書ニーズにこたえる手法の徹底ぶりが図書館員の関
心を呼んだ。アメリカではそれについて、雑誌『ライブラリー・ジャーナル』上で長期の
論争を引き起こしたことも事実である。その実践を文献で調べるのみならず、実際に訪問
しかなりの期間滞在して報告するのはきわめて重要な態度である。
しかしながら、筆者が今回訪問してみてこの図書館の神髄は図書館マネジメントが他に
例を見ないほど確固として存在するというところに見いだされると確信した。コレクショ
ンづくりもその要素の一つにすぎず、これだけをいたずらに強調することは、図書館サー
ビスの全体像を見失う恐れがある。わが国でこの方面の実践が参考になるのは事実であろ
うが、もっと違う面を紹介したいと思い本稿を書くことにした。
BCPLの概要
ボルチモア市はアメリカ東海岸の古い港湾都市であるが、この国の大都市の例にもれず
、エスニック・マイノリティが多く住むところとなっている。ボルチモアカウンティはこ
のボルチモア市のまわりを囲むように郊外に広がっており、白人の中産階級が住民の中心
である。ただし、最近はマイノリティの居住が市の中心部からカウンティにまで徐々に広
がっており、それにあわせて中産階級がさらにボルチモアカウンティの外側に移っていく
傾向があり、ここの財政状況を悪化させる一つの原因となっているらしい。
このカウンティ図書館は人口約70万人にサービスしており、現在16のフルサービス
の分館から成り立っている。かつて9館あったサテライトあるいはミニライブラリーと呼
ばれる小図書館は最近一館を除いて閉鎖した。これは財政難のためだが、事務職やボラン
ティアで切り回す小図書館を切り捨てて、一通りのサービスを行うことのできるところに
絞った方が効率がよいということであろう。このあたりにしても、この図書館のマネジメ
ントの特徴が現れている。
中央館がないというのがセールスポイントの一つである。この形態の図書館は別に珍し
くはなく、メリーランド州は後述のイノックプラット公共図書館を除くと、基本的にすべ
てが中小規模の図書館の連合体であるカウンティ図書館となっている。BCPL館長のロ
ビンソン氏は常々、コミュニティサービスに徹すべき都市郊外の図書館では大都市の中央
館を模倣することがいかに無駄かを説いている。これは傾聴すべき考え方であるが、筆者
のみたところこれを理解するには次のポイントを押さえておくべきである。
一つは、ここでフルサービス分館というのは、単に貸出中心の小図書館ではなく、貸出
、レファレンス、各種の行事等の基本的サービスをすべて実施しているところをいう。各
館平均で蔵書が約10万冊、資料費25万ドル(3000万円弱)、職員が25人、うち
専門職が10人程度である。規模から言えば、わが国の中都市の中央館クラスのものが1
6あると思った方がよいのであって、氏の主張は、ボルチモアカウンティに人口70万人
規模の都市の中央館相当の図書館は不必要という意味である。
もう一つは、これはあくまでも郊外型の図書館に当てはまる議論であり、ボルチモア市
の中央図書館であるイノック・プラット図書館の存在と対で考えられるべきである。BC
PLの運営方針から言えば、地域サービスに徹する図書館では要求に即時にこたえられる
資料や情報を用意しておけば、それ以上の大きなコレクションも専門的なサービスもいら
ないということになるだろう。しかしながら、利用者は都市部の大図書館や大学図書館、
職場の専門図書館などと使い分けをしているのであり、やはり、車で30分ほどで行ける
イノック・プラット図書館があるからこそ、中央館がいらないといえるのだろう。
さらに、地理的条件がからむ。ボルチモアカウンティは、カウンティと称しているがそ
の中には市町村は存在せず、実質的に都市と同等の行政体となっている。けれども、ボル
チモア市をぐるりと取り囲む地域がサービス範囲であり、中心地とよべるところがない。
あるとすればそれはボルチモア市のダウンタウンということになる。このことも、中央館
のない(あるいはイノック・プラット図書館を中央館と仮定している)理由となるだろう
。
新5ヶ年計画
まず最初に図書館マネジメントの全体を見ておこう。マネジメントというと企業経営を
思い浮かべ、図書館の世界とは無縁と考える人もいようが、政府も自治体もその他の非営
利組織も一個の経営体であり、ある目的のために経営資源を効率的に運用するための組織
である点で変わりはないという考え方が一般的になりつつある。公共図書館もまた、税収
による財源を住民の情報利用上の福利のために最大効率的に使用するというマネジメント
を行う組織なのである。
マネジメントの重要な方法は、計画的な運営である。BCPLは、これまで1977年
〜1982年の「要求にこたえるために」、1983年〜1988年の「拡大なき成長」
、1989年〜1993年の「改善の試み」の3つの長期的計画において、それぞれの時
期の財政状況やコミュニティの変化に応じてサービス内容を変化させてきた。全体的に言
えば、徐々に財政状況は悪化しており、先ほどの小図書館の閉鎖のように効率の悪いサー
ビスは切り捨てると同時に、いかに効率的にこの地域のマジョリティで税金の負担者たる
都市中間層のもっとも顕示的なニーズにこたえていくかを重要なテーマにして計画化を進
行させてきた。そして、後に述べるようにこの点でうまく利用者の気持ちをつかむことが
できれば、場合によっては少々の受益者負担を求めていくことも辞さないというような考
え方がある。
今回の訪問で、現在印刷中の4番目の長期計画書「未来へ向けての対応」(1994年
〜1999年)のドラフトを見せてもらった。(4)この内容はまさに、この図書館が未来
志向型の変革を試みようとしていることを示している。以下、その内容も含めて、ここの
マネジメントにおいて特に重要だと思われる点について述べてみたい。
「求める人に求めるものを」
徹底した要求指向の蔵書づくりについては、山本昭和氏の論文に概要が説明されている
。また、アメリカ図書館協会からその詳細をBCPLの担当者が執筆した図書が1992
年に刊行され、翻訳作業が進められているときいているので、いずれ日本語で読めるよう
になるだろう。(5)
BCPLでは少数の選書の専門家が新刊情報誌、出版広告、ダイレクトメールなどによ
って、集中的選書を行う。その際に、できるだけ利用されそうなものを優先的に選択する
という基本的方針をもっている。貸出数が多いことはその図書館が住民の役に立っている
ことを示している。したがって、利用の少なくなったものは積極的にウィーディングを行
う。
一部の著名な著者のものについては、多くの利用が予想されるので、大量の複本を購入
する。かつては、システム全体で1タイトルにつき1000冊以上の複本を購入したこと
もあったそうだが、今は、一番多いダニエル・スチールなどのベストセラー作家のもので
最大600冊程度だそうである。これでも、一館平均40冊程度になるから、かなりの複
本数である。また、この図書館はビデオやCD、カセットテープの貸出も積極的に行って
いる。アメリカの図書館の場合、商業映画のビデオやヒットチャートのCDを貸し出すこ
とも可能であるから、それらが1タイトルにつき複数部おかれると利用度は格段にあがる
はずである。だが、これらの非印刷資料の複数コピーはせいぜい5点程度におさえられて
いるようだ。
こうした資料収集方針の結果、この図書館は全米でもっとも貸出の多い図書館システム
となっている。年間1300万点の資料貸出があり、これは人口が数倍あるニューヨーク
市のクイーンズバラ図書館やロスアンゼルスカウンティ図書館などを上回る数字である。
住民一人当たりの年間貸出冊数は18.6冊で、これは全米平均の3倍程度にあたる。
この複本の多いことに見られるベストセラーへの執着は、かなりの論議を呼んだ。しか
しながら、BCPL側は、蔵書のうち、こうしたベストセラーに該当するものは5パーセ
ントにすぎず、残りの95パーセントは他の図書館にあるものと別にかわらない図書だと
説明している。だが、類似のものであっても、利用が多いことに特化した選書方針をもっ
ていることを見逃してはならない。
現在の年間の購入図書タイトル数(冊数ではない)はシステム全体で約8000タイト
ルだということである。この数は、70万人規模のコミュニティの図書館としては決して
多くはない。通常、そうした自治体はかなりの規模の中央図書館をもつので、中央館があ
る程度の専門書を収集しタイトル数は増えるのであるが、ここは中央館をもたずすべてが
分館のシステムなのでこうしたタイトル数に抑えられているのであろう。
本の購入にあたっては、選書担当者がまずタイトルを選定し、それがどの程度の利用が
ありそうかを予測して、システム全体の購入冊数を決定するというもので、冊数が決まる
とジャンル別に用意されている「フォーミュラ」と呼ばれる表によって、それぞれの分館
が何冊購入するが自動的に決まる仕組みである。これは、わが国の大手取り次ぎが出版物
を書店に配本するときに採用している「パターン配本」や「コンピュータ配本」と呼ばれ
る方法とよく似ている。量的な効率性を追求すると似てくるのであろうか。この方法を実
施すると、図書館は地域性や規模に応じて冊数や複本数の違いがあるとしても、基本的に
かなり似通った蔵書をもつことになる。
筆者は、以前に全般的な傾向としてアメリカの公共図書館の選書はかなり価値指向的で
あり、数としてもかなり抑制されていると述べたことがある。(6)その点は徐々に変化し
ていることは確かであるが、全体として、書評を手がかりとしたリスト選定をする関係上
このような傾向は依然として残っている。BCPLの場合は、タイトル数を抑えている点
で、従来の中小規模の図書館のパターンをそのまま踏襲しながら、大きく要求指向にシフ
トさせているのである。したがって、他と変わらないというのは、中規模以上の図書館と
の比較ではなくて、地域館や分館レベルの図書館との比較における話であろう。
山本氏は「BCPLの貸出しの多さは、住民の教育水準や平均所得といった図書館以外
の要因によるものではない。徹底した利用者指向の運営によるものである。」(7)と述べ
ている。しかしながら、この見方は半分正しく半分誤っている。ボルチモアカウンティは
最近変化が見られるとはいえこれまで典型的な都市近郊の白人中間層のコミュニティであ
った。教育水準や平均所得が図書館利用ともっとも相関の強い要素であることはこれまで
多くの研究が示しており、ここがまずそのような図書館利用の条件に恵まれていることは
確かである。彼が比べているニューヨークやロサンゼルスなどの大規模都市図書館システ
ムはいずれもエスニックマイノリティを多数含む地域であり、貸出数で比較すれば全米平
均よりずっと下回るのは当然のことである。
ここでは、BCPLと類似の人口60万人から70万人程度の都市地域にサービスする
他の図書館と比較することによってみてみよう。表は1992年の6図書館システムの統
計を示している。(8)ここでは、やや恣意的に特徴的な図書館を取り出すということをし
ている。たとえば、ボルチモア市のみにサービスする典型的大都市型公共図書館であるイ
ノックプラット公共図書館は貸出が住民一人当たり2.1冊である。それに対し、アトラ
ンタ-フルトン図書館やツーソンーピマ図書館は中規模の都市を中心にその郊外までをサー
ビス範囲にしている。そこで、4.8冊から7.5冊である。BCPLと同じように小規
模都市が集まっている地域にサービスしているモンゴメリーカウンティ(メリーランド州
)やヘネピンカウンティ(ミネソタ州)になると11.1冊あるいは13.8冊とその数
字はあがっていく。
これは基本的には都市部と都市郊外の居住者の違いに基づくのだが、それに関わって次
の点に留意する必要がある。まず、図書館財政は財産税に基づく地方財源がかなりの割合
を占めるので、住民の生活水準がそのまま財政に反映される。そのため運営費が大都市型
の図書館と郊外型の図書館でほぼ1:2の格差が見られ、資料費においてはさらに格差が
広がる。第2に、中央図書館をもつ大都市の図書館システムは、研究調査的な機能を合わ
せ持り、州の中央図書館的な位置づけにある場合も少なくない。その場合に、調査レファ
レンス的な機能にかなりの資源を投入するので、貸出に徹することがしにくい。第3に、
逆に、郊外型のカウンティ図書館は基本的に同質的な地域図書館の集まりであるので、ひ
とたび貸出サービスに徹しようとすれば、利用者指向のコレクションをつくってその効果
を十分に上げることができる。ヘネピンカウンティがBCPLに近いレベルの貸出実績を
上げているのは、ミネアポリスという大都市の郊外に位置するという類似の都市環境と運
営費に占める資料費の割合を高くして、貸出指向の蔵書づくりに心がけているからであろ
う。
このように、貸出を多くする要因としては、どのような住民が住んでいるかがもっとも
大きなものであって、それで図書館の基本的性格が決定されるといえるが、同様の条件下
ではどのような方針でサービスを行うかは重要なポイントとなるといえる。
図書館名 人口 中央館 分館 BM 運営費 資料費 職員 専門職
(百万ドル) 人(FTP)
Enoch Pratt Free 747,500 あり 28 1 16.6 1.9 379 96
Atlanta-Fulton 682,488 あり 30 0 14.2 1.9 447 137
Tucson-Pima 666,880 あり 18 2 11.3 1.1 240 80
Montgomery County 757,027 なし 23 4 24.5 2.9 369 162
Hennepin County 664,048 なし 25 2 20.6 3.4 421 102
Baltimore County 692,132 なし 25 2 25.8 4.4 516 99
平均(人口50万
〜100万人の都市) 15.5 2.3 319 88
図書館名 蔵書回転率 貸出密度 レファレンス件数
(百万件)
Enoch Pratt Free 0.6 2.1 1.4
Atlanta-Fulton 1.8 4.8 1.5
Tucson-Pima 4.2 7.5 1.1
Montgomery County 3.3 11.1 2.0
Hennepin County 7.4 13.8 1.3
Baltimore County 7.0 18.6 0.8
平均(人口50万
〜100万人の都市) 3.1 7.1 1.1
ゼネラリズムーー専門家の否定
ゼネラリズムとは、図書館業務のなかでのスペシャリストをできるだけなくして、専門
職ならだれでもが種々の業務をこなしていけるようなゼネラリストとして職務遂行する職
員体制を意味する。この言葉は1970年代後半以降、マネジメントにおける人的資源の
効率的運用を検討するときにBCPL内で生み出されたものだということであった。
アメリカは伝統的にプロフェッションのなかでの専門化の傾向はかなり強かった。スペ
シャリストは資料整理やレファレンスなど業務上の専門や音楽資料や科学技術資料といっ
た主題別の専門、さらにパブリックサービスにおける児童、成人、障害者などの利用者別
サービスの区分が考えられる。図書館員の専門性はこうした領域における専門知識や技術
の有無を通して発揮されると考えられてきた。都市部の比較的大きな公共図書館では人文
系とかビジネス情報とか、音楽資料といった主題専門家が存在する。中小規模の図書館で
もカタロガー、レファレンス、児童といった専門領域は確固として存在している。図書館
を移るときもそうした専門を生かそうとするのである。
これに対して、BCPLの主張はプロフェッションも分館レベルの公共図書館ではそん
なに専門分化する必要はないというものである。医学で例えれば、地域においては専門医
よりも家庭医や一般医が必要ということであろう。特に、児童サービスの専門家をおかな
いことを表明した点がもっとも論議を呼んだ。伝統的に公共図書館の児童サービスは、選
書からレファレンス、各種の行事プログラムまで児童図書館員が行うことを常としてきた
。これを否定し、あらゆる専門職が2〜3年のローテーションで異動し、児童サービスも
そういう意味で全般的な館内研修を終えただけの人が担当することになったことに対して
、全米の児童図書館員からの批判はかなりのものに上った。
ゼネラリズムの発想そのものは、わが国の職場でよく見られるローテーション制と似て
いる。BCPLはあくまでも住民のなかのマジョリティがもっとも一般的にもつ情報要求
にこたえることが重要だと考えている。特定の人しか利用しない特殊なサービスはやめ、
資料と情報の提供に徹するというのである。その点で児童専門プログラムの否定は図書館
サービス理念の大きな転換を示すものである。児童サービスこそ読書の動機付けを行うと
いう間接的ながら伝統的な図書館サービスの教育的機能を象徴するものであったからであ
る。
この職員マネジメントの改革は入念に計画され、長期にわたっての相互研修と呼ばれる
専門職同士のトレーニング期間をもうけることによって、実施された。分館に配属される
専門職は研修によって、表1のように、情報サービス、コレクション管理、集会行事プロ
グラムの3業務を一通りこなせることが期待されている。移行の時期に、ゼネラリストと
しての研修は、初年度半数の図書館員が経験したことのない児童サービスについて行われ
、2年目にコレクション管理、3年目に情報サービスについて行われた分館が多かった。
(9)
I 情報サービス
A 事実質問への回答
B 読書相談業務
C 利用者サービス方針の実行--図書館間相互貸借、分館間の予約資料の配送、特別貸
出、視聴覚資料サービス、問題と苦情の処理
II 資料コレクション
A ウィーディングと補充資料の発注
B 各館の発意ないしシステム内での調整による主題領域の形成
C PR業務への参加
D 購入資料の評価
III 集会行事プログラム(成人、児童、ヤングアダルト、高齢者、家族向け)
A 就学前児童への読み聞かせ、ストーリーテリング等の提供
B すべての年齢の利用者への図書館サービスの紹介ないし見学の案内
C 映画プログラム
D 講演会、音楽会等の上演
E 館主催の各種行事(例 ロンパールーム、所得税の申告相談)
F その他フロアでの各種活動への参加
もちろん児童用の資料の提供(ただしノンフィクションは成人用コレクションと混排に
なっている)は行うし、児童用のレファレンスデスクに職員(必ずしも児童図書館員とし
てのトレーニングを積んできたとはいえない職員)も座っている。しかし、図書館員が丹
念に児童書に目を通して、慎重に選書したり、読み聞かせ、各種の行事など濃密な人的サ
ービスをおこなったりといった児童サービスこそが公共図書館サービスの華でもっとも洗
練されたものという、イメージはそこにはない。そこには、長期的な目で見た教育的な使
命の達成というよりももっとビジネスライクな、子どもに対する求められる資料の提供と
いう行為がある。
BCPLのゼネラリズムが意味するのは、財政的危機のときに図書館サービスを「資料
および情報提供」の最大効率化という課題を軸に進めていくという発想である。余計なプ
ログラムやサービスをそぎ落としたときに残るは、求める資料や情報を求める人に提供す
るという部分である。そのときに、利用者の個別的なニーズに細かくこたえるより、一般
化されたニーズに事前にこたえるという戦略を採用する。表に見られるように、他の図書
館と比較すると職員全体の数は多いけれども、専門職の数は多くないのはそのためである
。一般的なサービスの提供のために、一人当たりの人件費の大きな専門職を減らして、事
務職を増やすとともに、専門職も専門分化しないでゼネラルな領域の仕事するというわけ
である。これは要求指向のコレクションづくりと基本においてよく似た態度ということが
できる。商業活動に例えれば、従来の図書館サービスがデパートあるいは専門店のように
個別的な消費ニーズにこたえようとしたのにたいし、ここはスーパーマーケットあるいは
ドラッグストアの経営手法を採用しているということができる。
情報サービス
BCPLの方針とわが国の「貸出サービス」を機軸とする公共図書館サービスの考え方
が似通っている点はずいぶんあるが、もっとも異なる点がこの情報サービスの提供がわが
国ではるかに遅れている点である。
わが国でも貸出とレファレンスが図書館サービスの基本だと言われてきた。けれども筆
者は市町村立図書館の場合、レファレンスサービスが制度として確立しているところは希
であり、両輪どころか、ほとんどその体をなしていないと考えている。その理由はいろい
ろ考えられるが、表面的に見て少なくとも、次の点が指摘できる。
(1)専任職員をおいたレファレンスの受け付け窓口(カウンター・デスク)がない。
(2)職員体制において、レファレンスが独立した位置づけをもっていない。
(3)レファレンスコレクションがあっても、百科事典、辞書、ハンドブックが中心で、書
誌的ツールに乏しく、少しでも深い文献調査がしにくい。
(4)図書館の件名目録の整備が遅れ、蔵書への主題アプローチができない。
(5)公共図書館が所蔵する雑誌を検索する適切な記事索引がない。
(6)全体に図書や雑誌のコレクションがフロー指向で、保存や一貫したコレクションの形
成という視点がないので、ごく新しい情報へのアクセスしか考えられていない。
問題は、レファレンスサービスが、図書館が利用しうるすべての情報資源を駆使して行
うもっとも基本的なサービスのことであるという発想に乏しいところにある。すでに筆者
はアナーバー公共図書館のレファレンスサービスについて、詳細に報告しておいた。(10)
ここのレファレンスが、独立した職員体制、通常2名が座るレファレンスデスク、多様な
レファレンスコレクション、件名目録の整備、様々な雑誌記事索引、資料保存の重視とい
ったわが国の逆の状況を示している。とくに、パンフレット、写真、地図、その他の資料
による丹念なインフォメーションファイルの作成に見られる情報源の多様さは目を見張る
ものがあった。
わが国で一般的に見られる資料提供論のなかにレファレンスを位置づける考え方--資料
の貸出は利用者が自ら必要な情報をえている行為であり、レファレンスサービスはその自
然な延長としてそれを支援するものというような段階論的主張からだけからは、なぜこの
ような人的サービスが独立したサービスとして行われなければならないかを理解しくい。
なによりも、従来の資料提供が図書と雑誌新聞という出版流通の枠内で行われ、適切な書
誌的ツールが整備されていない限り、レファレンスの情報源は最初から限定されている。
筆者は今後のわが国の公共図書館サービスのキーポイントの一つはレファレンスサービ
スをどのように実施していくかにあると考えているので、BCPLがこれをどのように運
用しているに関心があった。貸出に力を入れ、ゼネラリズムによって職員体制に徹底した
合理化を試みるこの図書館がこの部分をどのようにとらえているか興味深いものがあった
。
実際それをみた印象は、他の図書館と同様のレファレンス体制があるということであっ
た。すなわち、レファレンスサービスが貸出とは区別された独立部門を構成し、制度的に
しっかり位置づけられているということである。BCPLでは、レファレンスサービスと
いう言葉はもう使用せず、インフォメーションサービスで通している。インフォメーショ
ンは、デパートやビルの入り口のinformationのように案内という意味もあり、図書館に
よっては館内に複数のインフォメーションをおいて利用者に対する館内の案内、目録の使
用法、読書案内などを実施しているところがある。そうしたところで、別にレファレンス
専用のデスクがあって質問に答える体制をとっているところも少なくない。BCPLはイ
ンフォメーションサービスという呼び名で、案内機能とレファレンス機能を統合したもの
で、小規模な自治体の中央館などでも同様の形態のサービスをもつところが多い。
見学したタウソンの地域館(Towson Library)はワンフロアの図書館でBCPLのなかで
はもっとも規模が大きい部類であるが、現在存在する16のフルサービス館はみな同じよ
うなものだそうだ。タウソン図書館のインフォメーションサービスは、フロアのちょうど
真ん中の一番目に付きやすいところにまるくカウンターが取り囲み、そのなかで常時数人
の図書館員が利用者の質問を受け付けている。銀行の窓口などによくあるように、利用者
は一列に並んで、手の空いた図書館員のところで順序よく質問を受けることができる。見
学したのは、平日の午後だったので行列ができるほどではなかったが、引きも切らず質問
者は続いていた。これが週末になると、かなり長い列ができるそうだ。
こたえている様子から推測するに、質問は比較的簡単なものに限定されるようである。
レファレンスコレクションは、基本的な書誌、索引類、その他のレディレファレンスのツ
ールを中心とした比較的簡単なものであり、また、質問処理にそれほど時間をかけていな
いからである。これは、この図書館の方針は知的中流階層が要求する広い範囲の一般的情
報を適切に提供することであり、本格的な専門的レファレンス質問に答えることではない
ということを反映したものであろう。
情報サービスの提供にCD−ROMが用いられていた。ひとつは、プロクエスト(PROQU
EST)と呼ばれる雑誌新聞記事の抄録データベースである。公共図書館が所蔵することが多
い一般的な雑誌を対象にしたもので、館内に端末が4〜5台おかれていた。これとは別に
、OPACがCD−ROMのLANとして館内に数台利用可能であった。そのメニューの
一つにボルチモアカウンティの地域情報データベースがあった。これは、この図書館が作
成しているものである。これは、公共/民間を問わず、ボルチモアカウンティおよびボル
チモアのメトロポリタンエリアで活動を行っている団体の活動状況を紹介したものである
。たとえば、ボルチモアカウンティの様々な部門や宗教やスポーツ、趣味の団体とか、保
育サービスを提供している民間の施設といったような生活にすぐ役に立つ情報が提供され
ていた。収録されている団体は全部で、1000団体以上にのぼる。
伝統的なレファレンスコレクションももちろん、備えられている。参考図書は、やはり
分館規模であるからそれほど多いという感じはしないが、一般市民の関心の範囲にあるよ
うなものについては、しっかり用意されている点が印象に残っている。また、雑誌や新聞
のバックナンバーがマイクロ形態でかなりの量用意されているのも、アメリカのレファレ
ンスライブラリーによく見られる状況である。これらのバックナンバーは、CD−ROM
形態や冊子体の記事索引/抄録と組み合わせて使用するものである。しばしば、他の公共
図書館でその充実ぶりに目を見張ったことのあるパンフレットコレクションは、あること
はあったが、ごく基本的なものに絞られていた。このコレクションをつくることがかなり
労働集約的な作業を要するから、効率性を重視するBCPLではあまり力を入れていない
のであろう。
BCPLのサービスを紹介した本によると、システム全体で年間の質問処理件数は20
0万で、そのうちの80万件はPLAの基準に照らしてレファレンス質問のカテゴリーに
入るものだそうだ。(11)80万と一口に言っても見当がつきにくいが、16館あるから1
館平均5万件、月に4000件、毎日150件くらいのレファレンス質問を処理している
計算になる。あるいは、住民が年間平均3回質問をし、そのうち1回は本格的なレファレ
ンス質問ということになろうか。たいへんな数であるが、表のようにどの図書館もかなり
の数のレファレンス質問を処理しており、ここはむしろ少ない方なのである。
このように、BCPLの情報サービスは、OPAC、CD−ROM端末、参考図書、マ
イクロ資料といった情報源を利用者自身が使用して情報を入手するというレベルが一方に
あり、他方では、情報サービス担当の図書館員に質問して図書館員の代行探索にゆだねる
というレベルがある。利用者は、自分のもつ知識と調査の目的や求める情報の広さや深さ
に応じて、これらのどれを選択するかを決めているものと思われる。
有料制
図書館サービスが一種のビジネスであるという考え方は明確に主張されているわけでは
ない。しかし、非営利的ではあるが市場原理を取り入れたサービスの方が求められる資料
や情報を効率的に提供しやすいというという考え方が存在することは確かである。
この図書館の「料金一覧」と題されたリーフレットを見ると、表2のようなものが課金
の対象になっている。
種類 金額 備考
ビデオ貸出(2日) $1.50(現金)
$1.75(WOWカード)
コピーおよびコンピュータプリントアウト(1枚につき)
コピー $.25(現金)
$.15(WOWカード)
プリントアウト $.10(WOWカード) 現金では利用できない
コンピュータとはOPACおよびC D−ROMの端末のことでそれらに 接続されたプリンタを使用する場合
資料予約 $1.25(現金)
$1.00(WOWカード)
借出館以外への返却
ビデオおよびCD $2.00
システム内の資料の転送 他の分館にある資料を最寄りの分館
$.50(WOWカード) で借り出せるように、転送してもら
$.75(現金) う方法
ファクス(1ページにつき)
図書館から外部へ $1.00
図書館から図書館へ $.25 他の分館の資料をファクスで送って もらう場合
損傷
資料のバーコードラベル $.50
貸出カード $.50
返却の遅延(1日につき)
ビデオ以外 $.20 ただし、最大の金額が決まっている
ビデオ $1.50 図書6ドル、ビデオ10ドルなど
資料の紛失
手数料 $4.00
資料補充費用 実費 パンフレット2ドルなど
アメリカの場合、多くの州では図書館サービスを無料にすべきことを法律で規定してお
り、メリーランド州法にも同様の規定がある。とくに、1987年には同州の法務長官に
よる見解が示されており、(1)印刷物、(2)映画、(3)レコード、(4)ビデオ、(5)コンピュ
ータソフトウェア、(6)オンラインデータベース、(7)他の電子メディアを挙げて、これら
の貸出やこれらを使ってのレファレンスサービスが無料であるべきとされている。(12)
しかしながら、BCPLでは明らかに有料制をベースにしたサービスを行っている。こ
れは無料にすべき図書館サービスの範囲が法律の条文上は曖昧である点から、自由な解釈
を生んでいることに基づく。従来から、ファクスの個人的使用やビデオの貸出などは有料
にしているところが多く、資料紛失や返却の延滞料なども明瞭な料金体系が確立している
ところが多かった。また、資料予約などにも連絡の通信費程度(10セント程度)の課金
をするところも少なくなかったといえよう。法務長官の見解もビデオの貸出やオンライン
データベースについては必ずしも多くの図書館で守られていなかった。
BCPLの場合には他の図書館と比べてさらに異なった特徴が見られる。一つは、従来
、課金が避けられていたコンピュータ出力や資料の転送、借り出し館以外への返却などに
も課金するようになっているし、資料の予約に1ドル以上とかなりの額の課金を行ってい
ることに見られるように、図書館の基本的なサービスを超えた便宜が利用者に提供される
場合に、相応の額が課される傾向である。
何が基本的なサービスかは判断が難しいが、ここではおそらく次のような考え方がある
。利用者が最寄りの館に自分で出かけて、書架にある図書や雑誌などの資料を借り出した
り、館内のOPACやCD−ROMの検索装置で検索したり、図書館員から情報サービス
を受けたりする限りにおいては無料である。しかし、一歩その範囲を超えて、ビデオを借
りたり、資料を優先的にとっておいてもらったり(予約)、他館の資料を転送してもらっ
たり、借りた館以外で返したり、検索結果を出力したり(たぶんコピーが有料だからこち
らも有料という発想だろう)といったサービスを受けるとそれは有料になるのである。
有料と無料の線引きは多分に恣意的である。このように有料制の範囲を広げると、CD
は有料、価格の高い資料の貸出は有料、レファレンスサービスも有料というようになりか
ねないという心配はあるかもしれない。けれども、BCPLの論理は明快である。ここは
あくまでも、住民の多数派がもつ幅広いニーズにこたえていくのが図書館サービスの基本
であり、その限りのサービス利用はすべて無料である。ロビンソン氏は次のような意味の
ことを主張している。(13)
課金が利用者の情報アクセスを制限するという主張があるが、アクセスを制限す
る要因はじつは課金以外にもいろいろある。図書館予算の少なさ、選書の際の図
書館員の価値の押しつけ、図書館までの距離、駐車場の不足など。したがって、
情報アクセスに関しては料金が課されているかどうかばかりを気にするのでなく
、 もっと総合的な状況判断が必要である。
すなわち、BCPLは住民が比較的身近な場で基本的なサービスを受ける条件整備をし
た上で、さらに、利用者指向のコレクションを用意して多くの人が読みたがる資料へのア
クセスに関しては他の図書館よりもはるかに高いものを保証している。そういうなかでの
この程度の課金は十分に住民に支持されるというわけである。
先の表でWOWカードというのがあったが、これはごく最近導入されたもので、今後の
この図書館の進む方向を示しているように思われる。これは、資料の貸出カードとプリペ
イドカードを兼ねたものである。図書館内での金銭のやりとりにすべて使用できるもので
、1ドルから20ドルまでのものがある。購入するときの支払額の5%増しの金額が使用
可能であるし、先ほどの表にあったように、WOWを使用する方が価格が低く設定されて
いるので、二重にお得というわけである。また、このカードがないと利用できないサービ
スもあるので、図書館としてはカード所持を積極的に勧誘しているといえる。
というわけで、有料サービスはすでにこの図書館において重要な位置づけをもっており
、今後、さらに大きな役割を果たすものと予想される。財政難において収入を少しでも補
うという面もあるだろうが、公共サービスへ市場原理を持ち込むことは、住民のニーズに
より即したサービスを提供する手段となるという確信があることも確かである。
まとめ
公共図書館協会(PLA)は『公共図書館の計画立案と役割設定』と題する手引き書で
、各図書館が自らの役割の優先順位を明確にしておくことを提案している。(14)BCPL
の1989年−1993年の計画書「改善の試み」にはこの手引き書からとった次の4つ
の役割が掲げられていた。
□通俗資料図書館
□レファレンス図書館
□就学前児童の学習動機付け機関
□学校教育支援センター
これが、次の計画書「未来へ向けての対応」では、次のように変更されている。
□情報学習支援センター
□児童(小学3年生以下)支援センター
□大衆的関心への支援センター
□地域内各種団体(ビジネス、政府関係者、非営利団体等)への支援センター
要求度の高い資料への提供業務は依然として重点が置かれているにせよ、その優先順位
は若干下がっている。それに対し、一般の人々への情報や学習機会の提供とともに、ビジ
ネスや政府関係者など業務上の情報要求への対応が挙げられるようになっている点が興味
深い。この自ら定める役割の変化は、すでに述べたような情報サービスや有料制の導入の
部分にかいま見られたものである。
これまで検討してきた全分館システム、要求論的コレクション、情報サービス、ゼネラ
リズム、有料制の導入などは地域における図書館の位置づけを、従来の教育文化機関とし
ての静態的なイメージから、民間部門と競合し、分担しあうアグレッシブな情報サービス
機関としての公共図書館へのイメージへの転換を試みるマネジメント過程の諸要素である
と思われる。
情報社会とは大量の情報が容易に流通し情報の商品化が昂進している社会のことである
。この情報社会への対応という点でも、BCPLは大きな課題に挑戦しようとしているよ
うに見える。従来、公共図書館はその「公共性」の名の下に競合相手もなく、当然のごと
く無料で資料を貸し出したり、情報を提供したりしてきた。そこで提供される資料や情報
は。市場的な経済価値という視点ではなく、純粋に利用者が求めるものかどうかという視
点によって準備されてきた。しかしながら、情報社会は、利用者の情報要求が市場的価値
と大きな関わりをもつような状況をもたらした。また、要求充足の方法も市場と同様の速
さ、適時性、簡便性などが求められるようになった。そのことによって、利用者の要求に
忠実であろうとする図書館は、市場で提供されているような情報を民間セクターと同様な
方法で提供することが必要となった。多くの点で公共図書館が民間部門が提供するものと
類似のことを行っていることがはっきりしてきたのである。
アメリカでも近年書店の大型化が進み、人々のあいだに本を必要なときに購入するとい
う行動パターンが少しづつ定着しつつある。公共図書館は書店とある部分で競合し、ある
部分で分担しあうことを意識せざるをえなくなっている。また、図書館で貸し出すビデオ
やCDにとくに制約がないこの国では、民間部門のレンタルビデオやレンタルCDが図書
館サービスと重なっていることは誰の目にも明らかである。オンラインデータベース検索
もまた同様である。
BCPLは資料/情報提供を行う公共サービス機関であることに徹底しようと決意した
1970年代後半以降、民間部門とのこうした重なりを明確に認識し、民間部門の運営お
よびサービスの方法を意識的に採用するとともに、民間部門との差異と分担についてもは
っきりさせようとした。4度にわたる長期計画はこれらの検討の結果である。このような
マネジメントがこれまでのところ功を奏してきたことは否定できない。少なくとも個々の
館が運営方針を明確にしてそれに沿って計画を策定し評価するという近年のPLAの方針
からいっても、大成功であったといえよう。貸出冊数や情報サービスの提供件数からいっ
てそう結論づけてかまわない。これまでは、民間部門の手法の借用の面が強かったが、今
後、民間部門との競合と分担の面を強化していくことになる。その意味でまずWOWカー
ドの行く末が一つの評価の決め手となるだろう。
BCPLを見学した日、最初にスタッフミーティングをやっているところに通され、そ
こで館長のロビンソン氏が彼も出席したPLA大会の感想を述べていたことが思い出され
る。彼は、インターネットを中心とするネットワーク環境における情報環境の変化が大会
の重要な話題であったと述べ、特に、エンドユーザーが図書館に行かなくとも様々な情報
にアクセスできるような状況が生じつつあるとき、公共図書館はそれに対し果敢に挑戦し
ていかなければならないと説いていた。インターネットの普及は電子図書館が現実のもの
となり、地域の図書館そのものを不要にする可能性をはらんでいることを意味するもので
ある。
実は、ちょうどこのときBCPLもまた目録システムを全面的に入れ替え、インターネ
ット接続を行う作業が始まろうとしているときであった。図書館自らがこの状況のなかに
身をゆだねることを決意したのであるが、ロビンソン氏にはしっかりと勝算があるように
見えた。
注
(1)根本彰「日米の公共図書館の違いとは(II)--アナーバー公共図書館について」『みん
なの図書館』1989年4、5、6月号
(2))次のものがある。コンピュータ導入とネットワークシステム調査報告書 日本図書館
協会 1988 p.29-32;葉山清美 アメリカ東部への旅(4) みんなの図書館 1990年
5月号 p.44-48;西野一夫 アメリカ・カナダ研修メモ(II) 図書館雑誌 88(3)
1994.3 p.168-169
(3)山本昭和「ボルチモア郡立図書館の図書館運営」『公立図書館の思想と実践』森耕一
追悼事業会 1993 p219-238.
(4)Repositioning for the Future, Baltimore County Public Library 1994-1999,
[Baltimore County Public Library], [1994?] (draft)
(5)The Baltimore County Public Library's Blue Ribbon Committee, Give 'Em What
They Want! American Library Association, 1992.
(6)三浦逸雄・根本彰『コレクションの形成と管理』雄山閣 1993 p.165-167.
(7)山本 上記論文 p.221.
(8)Statistical Report '92--Public Library Data Service, Public Library
Association, 1992.
(9)T. D. Webb, Reorganization in the public library, Oryx Press, 1985. p.42.
(10)根本 前掲論文
(11)Sorry. The author is looking for the citation.
(12)Pete Giacoma. The Fee or Free Decision, Neal Schuman, 1989. p.38.
(13)V・L・パンジトア『公共図書館の運営原理』勁草書房 1993 p.153参照。
(14)Public Library Association, Planning and Role Setting for Public
Libraries, ALA 1987.